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真空ガラス
「スペーシア®」
-「製販技」一体でのチャレンジ

スペーシア®施工例 OIT梅田タワー

スペーシア® 施工例 OIT梅田タワー

真空ガラス「スペーシア®」とは?

厚さは1枚ガラスとほぼ同じで断熱効果は約4倍

「スペーシア®」は日本板硝子が世界で初めて実用化した高断熱真空ガラスで、1997年10月に発売された。2枚のガラスの間に0.2mmの真空層を閉じ込める真空技術と特殊金属膜コーティング技術により、従来の複層ガラスの常識を覆し、厚さの薄い高断熱の真空ガラスを実現。厚さ約6.2ミリでありながら厚さ12ミリの一般複層ガラスの約2倍、また一枚ガラスの約4倍の断熱性能を発揮する。それにより、室内温度を快適な環境にコントロールし、省エネルギー、結露対策にも効果を発揮する。

真空ガラス「スペーシア®」

真空ガラス製造技術の発明と
NSGへの導入

真空ガラスのアイデア自体は古く、1913年に公表され、1921年には米国で特許が成立した。しかし、真空の圧力に耐えるように設計することは困難で、量産化はさらに難しいことから長い間不可能な技術とされていた。
第一次石油危機以降、「省エネルギー」の関心が高まっており、シドニー大学のリチャード・コリンズ教授(以下:コリンズ教授)は、断熱性能を高める真空ガラスの研究を精力的に進めた。その結果1989年に、コリンズ教授と教え子のステフェン・ロビンソンは、多数のサンプルを試作することに成功し、研究室での生産が可能であることと量産化実現の可能性を示した。コリンズ教授はその技術について、1989年から1993年にかけて、世界の多くの名だたるガラスメーカーおよびガラス窓メーカーにプレゼンテーションを行って説明したが、反応は冷ややかだった。

出会い

河原秀夫開発部長
河原秀夫開発部長

1993年、コリンズ教授は、日本の某技術研究所の著明な博士と会い、真空ガラスに関してメーカーと関係構築を望んでいることを訴えた。博士は、このことを日本板硝子の社長に伝え、社長はガラス建材開発の責任者だった河原秀夫開発部長(以下:河原部長)(当時)に打診を行った。河原部長は真空ガラスに興味を示し、さっそく来日していたコリンズ教授に会い、サンプルの提供を依頼した。
当時、関東より北では冬の寒さ対策として複層ガラスやアタッチメント付きペアと呼ばれる窓ガラスが主流となっていた。これらは窓枠の幅を必要とするため、真空ガラスの大量生産が可能になれば、既存のサッシのガラスをはめかえるビジネスが成り立つ可能性があった。

コリンズ教授は、日本及び世界のガラスメーカーと交渉していたが、真空ガラス技術に強い興味を示したのが河原部長だけだったこともあり、その後河原部長と優先的に交渉を始めた。コリンズ教授と河原部長の出会いは、間に2人の人間を挟む細い糸を手繰るような出会いだったが、その後、当社に大きな影響をもたらすものとなった。

シドニー大学と日本板硝子の研究開発メンバー(1997年)
シドニー大学と日本板硝子の研究開発メンバー(1997年)

製販技一体のプロジェクトチームを発足

1994年、コリンズ教授を通じて当社とシドニー大学は正式にライセンス及び共同開発契約を結んだ。当社では、河原部長のリーダーシップにより、1993年から、伊丹研究所で技術導入の準備態勢に入った。コリンズ教授グループと密接に協働を行い京都工場にパイロットプラントを立ち上げ、性能向上と量産化の検討に着手した。基本アイデアをシドニー大学から導入したものの工業化への道のりは険しいことが当初より想定されていた。1996年にプロジェクトチームを立ち上げたが、真空ガラスの量産に成功すれば一般家庭が顧客となるため、当初より開発・製造から販売までの一貫したチーム構成とした。当社ではそれまで素板を製造し卸店に提供することに集中しており、最終製品としての販売を含めた新規案件のプロジェクトチームを組織したのは初めてのことだった。プロジェクトチームの合言葉は、「製販技一体で進める」であった。

工業化のための技術的チャレンジ

工業化のための技術的チャレンジ
複層真空ガラス「スペーシア21®」を採用した大阪工業大学OIT梅田タワーの吹き抜け空間

工業化のための技術的チャレンジ

当社がこのプロジェクトを開始した当初、コリンズ教授の研究は、真空ガラスの実験的基礎技術の開発にとどまっており、その工業化・量産化には多くの技術的課題が残されていた。NSGとシドニー大学のチームは、それらの課題を解決するために何年にもわたって密接に協働を行った。両チームは、それぞれの得意とする専門技術を持ち寄って、課題が持ち上がるたびに技術的な問題をフルに共有し取り組んだ。いくつかのケースでは、初期の仕事を何度も繰り返す必要があり、また、まったく新しい技術的アプローチを開発する必要があった。数多くの想定外のやり直しと莫大なコストを強いられたが、真空ガラス技術を成功に導くという当社の方針は揺るがなかった。
当初のチャレンジの1つは、莫大な大気圧のもとで2枚のガラスの間の真空を保つマイクロスペーサーをいかに効率よく配列するか、そして2つ目の大きなチャレンジは、その真空ガラスをどう量産化するかだった。

マイクロスペーサー配列技術の開発

真空ガラスでは2枚のガラスの間に真空層を形成するが、大気圧は1平方メートル当たり10トンあり、これにより2枚のガラスが押されて接触することのないようにマイクロスペーサーを配列する必要がある。しかしマイクロスペーサーも熱を伝えるため、マイクロスペーサーの数を最小限にして配列しなければならない。この課題には、日本板硝子エンジニアリング株式会社の技術者達が取り組んだ。マイクロスペーサーを効率よく配列し量産する装置はそれまで存在しなかったため、独自に設計を行い、試行錯誤を重ね、同社の技術者達は開発開始から約2年をかけてマイクロスペーサー配列機を完成させた。この技術は現在も基本技術として使われている優れた発明だった。

マイクロスペーサー配列技術の開発

真空ガラス量産のチャレンジと克服

当時、真空排気技術はブラウン管などに使われており、ブラウン管1個ごとに真空ポンプ1個を使って製造するという方法が主流だった。それでは効率が悪いため、真空排気技術を持つ企業に、真空ガラスを1枚ずつではなく、一度に多数の真空ガラスを生産できる装置が作れないか打診を行った。しかし、開発の要請にこたえてくれたのは1社だけだった。理論的に真空ガラスの量産はできるという信念で設計を進めたが、引き受けた会社も製作した装置の最終的な真空度の保証はしてくれず、動かしてみなければ性能はわからないという状況だった。結果、完成した装置はほぼ期待通りの性能を発揮し、2つの大きな課題を克服することに成功した。
これらをはじめ多くの技術的チャレンジを解決し、1997年1月に真空ガラス「スペーシア®」の開発の成功を世界に向けて発表し、同年、日経優秀製品・サービス賞の優秀を受賞した。

販売体制の構築と数々の受賞

真空ガラスは当社として初めてのユーザー直結販売製品で、プロジェクトは当初より販売方法まで見込んだ体制をとった。工業化が決まると社員に商品名の募集を行って500件を超える候補が寄せられ、その中から「スペーシア®」が選ばれた。1997年1月にスペーシア®の開発成功の発表を行った後、社員向けの試験販売、地域限定の試験販売を行った。それによりガラス店による販売や取り付け方法などの問題点を確認し、販売店の教育を行い、同年10月に本格販売を開始した。その時にはすでに全国に1000店のスペーシア®取扱店のネットワークを構築しており、社内に初めてコールセンターを設置した。

真空ガラススペーシア®

拡販・製造のチャレンジ

竜ヶ崎工場地鎮祭
竜ヶ崎工場地鎮祭

拡販・製造のチャレンジ

発売した1997年の冬は出荷が注文に追い付かず、出荷調整で苦労する状況となった。しかしながら、販売ではリフォーム市場を主なターゲットとしたが、一般家庭からのガラスの注文が、直接ガラス店には行かないことが分かり、取扱いガラス店の近隣にチラシを撒くよう依頼した。当社からは同地域で新聞広告を打つなどして、「スペーシア®」の認知と、ガラス店への注文向上を図る努力を続けた。京都工場での製造能力も拡大したが、1998年5月には茨城県龍ヶ崎に工場を立ち上げ、生産能力のさらなる向上を図った。製品の品質を高め、様々なサイズの製品を効率的に生産する自動計算システムを開発し、納期短縮にも対応できる生産体制を構築した。

「スペーシア®」ラインアップの拡充と数々の受賞

数々の受賞

「スペーシア®」ラインアップの拡充と数々の受賞

真空ガラス「スペーシア®」は、その断熱性能に他の機能を組み合わせたラインアップの拡充を続け、2002年 複層真空ガラス「スペーシア21®」、2004年 合わせ真空ガラス「スペーシア静®」、2012年 真空ガラス「スペーシア®クール」、2014年 複層真空ガラス「スペーシア21®」遮熱クリアタイプ、2017年 超高断熱真空ガラス「スーパースペーシア®」を発売した。
省エネ大賞を「スペーシア®」(1999年)、「スペーシア21®」遮熱クリアタイプ(2013年)、「スーパースペーシア®」(2017年)と3度受賞した。ほかにも2007年に真空ガラス「スペーシア®」を開発した技術力が評価され、「ものづくり日本大賞(経済産業大臣賞)」を受賞している。

「スペーシア®」のさらなる展開

2011年からTVコマーシャルを開始し、生活者の認知も一段と高まってきた。スペーシア®の性能が認められ、住宅やマンションだけでなく、省エネが大きな課題となる開口部面積が大きく営業時間が長いコンビニやレストラン、さらには、国内外の歴史的建造物や大学、公共施設などで採用されている。建築だけでなく、温度管理が厳しく内容物が見える必要のある食品のショーケースや、業務用冷蔵庫などでの採用も進んでいる。当社では、スペーシア®の特性を活かし、時代や生活スタイルの変化と需要に応じた様々な用途の製品開発や展開の検討を続けている。

リチャード・コリンズ
 シドニー大学名誉教授からのメッセージ
(2018年)

私が真空ガラスの開発を思いついた1987年当初は、多くの人に「ばかげたアイデア」だと思われていました。しかし2年後に、私の教え子のステフェン・ロビンソンは、世界初の断熱真空ガラスのサンプル作製に成功しました。さらに4年かけて、私のチームはこの技術の理解を急速に深めました。しかしながら、不断の努力にもかかわらず、私は真空ガラスを商業化するための協働相手を見つけることができませんでした。
そして1993年、河原秀夫氏とNSGがこの挑戦に参戦しました。私は、NSGとシドニー大学の協働チームが、その後成し遂げた成果を非常に誇りに思っています。また、多くの技術的・商業的困難にもかかわらず、NSGが揺るがずに開発を続けてくれたことを大変感謝しています。「スペーシア®」の成功に関わることができたことを、私は幸運に思っています。

真空ガラスの開発にあたったシドニー大学リチャード・コリンズ教授
真空ガラスの開発にあたった
シドニー大学リチャード・コリンズ教授